ブラジルサッカー便り 

2014年よりブラジル、サンパウロ在住、サッカー大好きです。

観客席の声 

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月曜日は試合がないから、火曜のスポーツ欄は記事を埋めるのに苦労するが、2ページ見開きでサポーターのチャントの歌詞を分析、考察する記事が一般紙に載った(6月20日フォーリャ・ジ・サンパウロ)

 

2日続けて新聞記事を一部翻訳して書いてみます。今日もフォーリャ・ジ・サンパウロから。タイトルは「観客席の声」
 
ブラジレイロン一部20チームのスタジアムに通って、そこで歌われるチャント(応援歌)やコールに耳を傾け、それを真面目に分析した記事。火曜はスポーツネタで書く事が少ないとはいえ、これに見開き2ページも費やすブラジルの一般紙は凄いなあ。
 記事によると、サッカー場で歌われるのは大きく分けて3つ。「暴力」と「反同性愛」と「チーム愛」だ。
 
マラカナンだろうと、ミネイロンだろうと、パカエンブーだろうと、サポーターの歌うチャントの歌詞の中には、暴力的な表現が驚くほど多く登場する。
 歌詞や旋律の多少の違いはあれ、敵チームを「殴れ」「叩きのめせ」、挙句の果てに「殺せ」とまで歌ってしまうチャントも少なくない。

 18日にはコリチーバxコリンチャンス戦で、試合前にコリンチャンスファンがコリチーバファンの集団から暴行を受け、重症を負ったばかりだ。(倒れたコリンチャンスファンを、コリチーバのファンが集団で蹴りまくる映像はニュースでも普通に流れたが、ここにリンクを貼るのはやめます)
 今年2月にはリオ州選手権のボタフォゴxフラメンゴ戦で、ボタフォゴのファンがフラメンゴのファンに撃たれて亡くなっている。
 2014年~2016年までの3年間で、サッカーの対抗心が理由となって(場所はスタジアムに限らず、事件発生の時間帯も試合時にも限らない)ブラジルで亡くなった人の数は49人を数えた。
この記事では勇気ある事に、各チームのオルガニザーダ(過激なサポーターグループ)のリーダーにインタビューしている。
クルゼイロのマフィア・アズール副会長のダニエル・ゴメスさんとか、コリチーバのインペリオ・アウヴィ・ヴェルジ会長のジュリアーノ・ニコロージさん、ボタフォゴのフリア・ジョーヴェン幹部のファビオ・デ・パウラさん、、、次々にインタビューを受けているが、筆者は「これは本名だろうか?インタビューの場所はどこだろう?オルガニザーダの本部なんか行ったら危なくて仕方ないだろうに」と思ってしまう。
 
各リーダーは、「これは言葉のアヤで、本当に相手を殺そうと思っているじゃない。むしろ暴力には反対、チームを命がけで応援すると言いたいだけ」と口を揃えた。
「例えば世界各国の国歌の歌詞は、かなり血なまぐさい内容だが、その国の人々が暴力的なわけではない。サッカーでの暴力が減らないのは、チャントの歌詞のせいではなく、ブラジル社会の抱える問題の現れ」との学者さんのコメントも載っていた。

 次に取り扱われているのは「反同性愛」  ブラジルは明らかに男性優位主義社会。それだけでなく、「男は男らしく、たくましく」的なマッチョ信仰も残っており、サッカー界には特にその傾向が強い。「相手は腰抜け、まるで女。つまりゲイ、ホモ。だからそれをあげつらって馬鹿にする。俺たちは男の中の男」(こうして書くのも不快だ。読むのも不快でしょうがご容赦ください。はっきりさせます、筆者はこうした考え方を全く支持しません)という全く間違った考え方が残っている。
 
コリンチャンスファンは、サンパウロFCのファンをオカマと笑い、サンパウロFCファンもコリンチャンスファンこそオカマと罵り返す。メキシコではキーパーがゴールキックを行う際に「オー、プート!(スペイン語で男娼の意味)」とスタンドで叫ぶ行為があるが、それが2014年ワールドカップでブラジルにも波及し、今では「オー、ビシャ!(ポルトガル語で男娼の意味)」と叫ぶ行為が定着してしまった。これをブラジル代表の時にも行い、CBFはFIFAから罰金さえも受けているのに改善の見込みがない。これに対しても各オルガニザーダは、「同性愛差別の意図はない」と弁解にならない弁解をしているが、一向に止む気配はない。
「対戦相手を同性愛者だと攻撃する歌を歌うことで、『同性愛者を攻撃することは問題ないんだ』と刷り込まれてしまう。これは子供に限らない」との有識者のコメントも載っていた。
 
最後に扱われているのは、「チャントとチーム愛」についてだ。 暴力や半同性愛を歌う、どうしようもない歌詞ばかりでなく、「俺の愛するコリンチャンス(サントスでもフラメンゴでも、パルメイラスでもよい)が試合するなら俺はどこへでも行く!」「XXXよ俺の人生、俺の歴史そのもの」「この喉枯れるまで叫ぶぞXXXXと」のような歌詞も同じくらい多くある。最近はアルゼンチンのチャントの影響が目立っていることも紹介されて記事は終わっている。
各オルガニザーダも、「もう何年も前から歌われているし、本気で暴力や同性愛差別をする意思はない」とくだらない言い訳をせずに、チームへの情熱を歌うチャントだけにすればよいのだが…