ブラジルサッカー便り 

2014年よりブラジル、サンパウロ在住、サッカー大好きです。

「絶対にクビにできない監督」を据えてしまったサンパウロFC

f:id:kimio_ido:20170623050528j:plain

サンパウロFCのレジェンド、ロジェリオ・セニ、チームを立て直せるか(agenciabrasil)

サンパウロFCの調子が良くない。ブラジレイロンも9試合を消化して3勝1分5敗の勝ち点10で15位に沈んでいる。降格圏の17位スポルチとの勝ち点差は僅かに1ポイントだ。監督交代の物凄く激しいブラジルで、この成績は、他のチームなら監督交代の声が上がっても全く不思議ではないのだが、サンパウロFCはどうやら事情が違う。
 
 21日のアトレチコ・パラナエンセ戦に敗れた直後、現地のジャーナリストが面白いことを言っていた。「セニの解任なんてあるわけない。会長がセニをクビにするより、セニが会長をチームから追放するほうがまだ簡単なくらいだ」
もちろんものの例えで、監督が会長をクビにするなんてあるわけないが、こっちのジャーナリストは、こうして、聞いていてクスリとさせる言葉を選ぶのが上手い。
 
 ロジェリオ・セニは1990年にサンパウロFCでプロデビューして以来25年、サンパウロFC一筋でプレーして、2015年を持って現役を引退した。
出場試合数は1000を超え、PKやFKのキッカーをまかされた彼は100ゴール以上決めている。サンパウロFCの歴史は87年だから、チームの歴史の中で4分の1以上の期間は彼が現役だったことになる。
 2005年のリベルタドーレス、クラブワールドカップの優勝も、2006、07、08年のブラジレイロン3連覇の栄光も、彼がキャプテンとして勝ち取ったものだ。
 ブラジル代表出場試合数は17に留まり、2002年と06年のワールドカップでもサブメンバーだった(06年大会は日本戦で途中出場)ことから日本のサッカーファンには印象が強くないかもしれないが、サンパウロFCのファンにとっては、唯一無二の存在だ。
 

 「サンパウロFCがロジェリオ・セニを監督に迎えた時から、このリスクは明らかだった。彼をシーズン途中で解任なんて出来るわけがない」とジャーナリストは語っている。
 今年のサンパウロFCはとにかく不安定なディフェンスに苦しんでいる。GKもDFもとっかえひっかえ、システムも出場メンバーもなかなか固定できない。
 「自分が名GKだったのにディフェンスを安定させられないのか?」と多くのコメンテーターがよく言う台詞だが、筆者は、それはちょっと酷ではないか?と思う。「チーム作りは守備から」はブラジルでも言われる定石だが、「GKだったくせに」は余計だろう。現役時代FWだった監督に「FWだったくせにどうして指揮するチームの攻撃力が弱いんだ?」と非難することの愚かさを考えてみれば明白なはずだ。
 サンパウロFCは去年半ばに獲得した、ペルー代表MFのクエヴァ中心のチーム。今年前半のサンパウロ州選手権では調子の良かった彼が、故障から調子を崩し、目玉補強のアルゼンチン代表FWルーカス・プラットに良いボールが供給されず、期待の若手ルイス・アラウージョもフランスリーグのリールに移籍してしまった。
 ディフェンスも本来リーダーとなるべきマイコンが不安定で、今のサンパウロFCは、誰が監督をやっても苦しいだろう。チームは一朝一夕には強くならない。首脳陣がどっしり構えてむしろ「今年はセニに監督経験を積ませる年」くらいに腹をくくってメンバー編成でサポートするしかない。