ブラジルサッカー便り 

2014年よりブラジル、サンパウロ在住、サッカー大好きです。

ブラジル大統領選に関して思うこと。

 去る7日にブラジル大統領選挙が行われた。ブラジルでは一回目の投票でだれも過半数を取れなかったら、上位2人の決選投票となる。7日の投票で1位になったのは、日本のメディアで「極右候補」と紹介されているボウソナーロ氏(得票46%)で、2位は「左派」とくくられるハダジ氏(同29%)だ。

 28日にこの2人の間で決選投票が行われるのだが、僕は60%対40%くらいの得票率の差でボウソナーロ氏が当選するのではないかと予想する。

 ブラジルに暮らして4年4か月の僕には、「国民の間に溜まっている、大きなフラストレーションがこの選挙で爆発した」という印象だ。

 2000年一桁年代に好況を経験し、2014年W杯招致も、2016年リオ五輪招致も決定。2008年のリーマンショックの影響からもいち早く抜けたと言われるブラジルは、2010年代の初めまでイケイケだった。

 それが、W杯の行われた2014年から長期不況に突入した。統計上はリオ五輪の行われた2016年末で不況は終了し、「17、18年にかけてまた経済も復活する」と期待されていたのが、一向にその兆しは見えず、なにより失業率が高いままだ。

 そんな中、政治家は右派も左派も汚職三昧。治安、医療、教育の問題もなかなか改善せず、「これまで政治の世界で主役をはっていた勢力は全然ダメ。じゃあいっそのこと、、、」という不満の票を根こそぎもっていったのがボウソナーロ氏ではないか。

 ボウソナーロ氏は軍出身で、とてもここで書くに堪えないような、女性蔑視、同性愛蔑視発言、軍政復古支持発言を繰り返しており、太平の世ならとても政治の表舞台に立つような人物ではない。(「ブラジルのトランプ」と評される理由だ)

  ただ、「ボウソナーロだけは絶対ダメ!」な人々は、「あいつが大統領なんかになったら、とんでもないことになる。あいつに投票する奴はファシスト。民主主義の危機」なんて物言いをするが、それはちょっと大げさじゃないかと思う。

 僕の周りに「俺っち、絶対ボウソナーロ。あいつなら同姓愛のオカ〇野郎共を淘汰してくれる」なんて言ってボウソナーロ氏を支持しているオオバカモノは1人しかいない。(いや、悲しいことに1人いるんだ。知り合いに)

 ほとんどの人は「『1400万人もの失業』を何とかしてくれ。(対抗馬の)ハダジじゃだめだ。あいつは左派のバラマキ政策の労働者党。労働者党が今の不況を招いたんだ。汚職も酷いし。だいたいハダジが自分の副大統領に指名しているのは共産党員だぞ。ボウソナーロが人格的にダメなのは分かっているけど、背に腹は代えられない。ボウソナーロが当選したからって、いくらなんでも翌日から軍事独裁復活、反対勢力拷問しまくり、女性差別、同性愛差別しまくりになるじゃないだろ」って、ボウソナーロ氏を支持している。

 こうした傾向は世界中で起きている。これまでの人生の必勝パターンが崩れて、途方に暮れている人々が不満をため込み、既存の政治勢力にアッカンベーして、「いっそ破壊者にたくそう」と思ってしまうのだ。ブラジルは少し前の時代がイケイケだったし、日本よりもずっと快楽主義、物質主義、消費主義的な人が多く、イケイケムードがコケた反動は大きい。

 ただし僕は、ボウソナーロ氏が大統領になっても、景気はよくならず失業率も改善しないと予想している。人々が「景気」というとき、それは要するに「自分の所得」のことだ。だいたい今の世の中、個人の所得を上げるために政府ができることってあるのだろうか?逆に個人の所得が増えないとき、その理由、責任が政府にあると言えるのだろうか?

 激薬ボウソナーロでダメだった場合、今よりさらに、ギスギスすさみきった社会だけが残った場合、有権者たちはどんな反応を示すのだろうか?と心配だが、選挙権のない僕にはどうすることもできないし、ブラジルのことはブラジル人が決めるべきだろう。選挙結果に良いも悪いもなく、ただそれが民意であるというだけのこと。18日後の決選投票の行方を見守りたい。