ブラジルサッカー便り 

2014年よりブラジル、サンパウロ在住、サッカー大好きです。

コリンチャンス躍進を支えるヘタウマサイドアタッカー、パラグアイ代表、アンヘル・ロメロ

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ちょっとしたミスもご愛敬、もはやコリンチアーノたちのアイドルとも言えるパラグアイ代表のロメロ。 数こそ少ないが、サンパウロ州選手権決勝や、パルメイラスとのタービーで貴重な得点をあげている(Daniel Augusto Jr. / Ag. Corinthians)

 

 2年ぶり7度目のブラジル全国選手権優勝を目前としているコリンチャンスのサイドアタッカー、パラグアイ代表のアンヘル・ロメロ、今シーズンの彼を象徴するようなシーンが6月にあった。 6月11日のホームサンパウロ戦での事だ。 彼はその試合でゴールを決めたが、ここで紹介するのはそのゴールでも、アシストでもドリブルでもなく、トラップだ。 高く舞い上がったボールをロメロがピタリと足元に止めた時、観衆は大歓声を送った。3-2で勝利した試合後、このトラップにチームメイトさえもロッカールームで賞賛を送った。

 一回のトラップがこれだけ騒がれるのには伏線がある。ロメロはブラジル全国選手権首位チームのレギュラーサイドアタッカーでありながら、実はあまりボール扱いが器用でなく、ドリブルもぎこちない。 しばしば、からかいの対象になっていたのだが、この試合の数週間前、大手TV局のグローボが、ロメロにボールを投げて、ロメロが単純な胸トラップを失敗するのを繰り返し放送していたのだ。

 TV局に馬鹿にされたことに対し、絶妙トラップで見返してから5カ月。ロメロはもう、コリンチャンスの紛れもない主力メンバーの一人だ。明日15日のホームフルミネンセ戦に勝利すれば、3節を残して、2年ぶり、7回目のブラジル全国選手権制覇が確定する。
 監督のファビオ・カリーリも、「ロメロはチームに欠かせない。チーム戦術に忠実だし、諦めずにボールを追う。彼の貢献は絶大だ」と賞賛を惜しまないが、ロメロは以前から今の評価を確立させていたわけではない。

 2015年のプレシーズン、当時のコリンチャンスを率いていた、今やブラジル代表を率い名将の評判高いチッチは、「ロメロのテクニックではコリンチャンスでやっていけるか疑わしい」と語っている。

 ロメロは過酷なチーム内サバイバルに耐え抜くも、その年結果的に優勝を果たすチームの中で、出番は限られたものだった。

 ブラジルでは、味方のはずのサポーターからも、ミスをしたら容赦ない罵声が飛ぶし、近年では、おかしな合成画像をネットに張られ、からかわれる事もしばしばだ。ロメロはその度に屈辱をグッとこらえ、自分のプレーに集中した。ただし、グローボのあの事件以降、マスコミからのインタビューは余り受けていない。

 サイドでボールを持っても、ドリブルで華麗に敵を交わすことはあまりない。しかし、チーム戦術に忠実で諦めずにボールを追い、味方を助け、最低でもマイボールスローインやコーナーキックを確保、攻撃の選手としては敵ボール奪取率が異様に高く、たまにはゴールも決める。そんなロメロを評価する声はコリンチャンス内部だけにとどまらない。

 ライバルチーム、パルメイラスの敏腕GM、アレシャンドレ・マットスは、友人たちとの会話で、「(前職)クルゼイロのGMだったころ、ロメロを獲ろうとした事がある。双子のオスカルじゃない。コリンチャンスのアンヘル・ロメロだ」と語った事がある。ロメロには双子の弟、オスカル・ロメロ(スペイン1部・アラヴェス所属)がおり、技術レベルが弟のほうが上とされている。

 しかし、コリンチャンスの監督カリーリの指揮下では個人技よりも、まずチームへの絶対的な貢献が要求される。ロメロの貢献度の高さは、伝説の1970年W杯優勝メンバーで医師資格も持つインテリ、トスタンさえも、その守備力を特に評価して、「サイドの仕事人」とコラムの中で呼ぶほどだ。

 ロメロはコリンチャンスに2014年から所属しており、現メンバーでは古株だ。そんな彼も、移籍当初はホームシックでたった数日のオフでも家族のいるパラグアイや、弟が当時プレーしていたブエノスアイレスに飛び、共に過ごしていた。ちょっと時間はかかったが、ロメロはすっかりサンパウロでの生活にもなじんだ。今では試合前のスタメン紹介の時に送られる拍手の大きさもチーム随一だ。

 そんなロメロを、チームのエースで元ブラジル代表のジョは、「ロメロの貢献は時に理解されない事もある。でも、彼はチームにとってとっても重要なんだ」と語っている。